障害年金の「巧緻性」「動作の速さ」「耐久性」とは?
日本年金機構の障害認定基準では、「肢体の機能の障害」について、関節可動域、筋力、巧緻性、速さ、耐久性を考慮し、日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定するとされています。
つまり、診察室で一度だけ動作ができたからといって、それだけで「日常生活に支障がない」と判断されるものではありません。
ここで重要になるのが、**「巧緻性」「動作の速さ」「耐久性」**という3つの視点です。
「巧緻性」とは
巧緻性とは、簡単にいえば、手や指などを細かく、正確に、思いどおりに動かす能力のことです。
例えば、握力がある程度保たれていても、
- ボタンをうまく留められない
- 箸で小さな物をつかめない
- 小銭をつまみにくい
- ペンを持って文字を書き続けることが難しい
- ひもを結ぶのに非常に時間がかかる
といった状態であれば、巧緻性が低下している可能性があります。
障害認定基準でも、手指の機能をみる動作として、「つまむ」「握る」「タオルを絞る」「ひもを結ぶ」などが示されています。
また、上肢の機能として、食事、洗顔、衣服の着脱、ボタンを留める動作などが挙げられています。
したがって、単に「筋力低下あり」と記載するだけでなく、筋力低下や麻痺によって、実際の細かな動作にどのような支障が生じているかまで表すことが大切です。
「動作の速さ」とは
「速さ」は、単純な歩行速度だけを意味するものではありません。
ここでいう速さとは、日常生活に必要な動作を、通常どの程度の時間で行えるかという視点です。
例えば、
「ワイシャツのボタンを留めること自体はできるが、通常の何倍もの時間がかかる」
「立ち上がることはできるものの、手すりにつかまり、何度か体勢を整えなければ立ち上がれない」
「屋内歩行は可能だが、非常にゆっくりで、移動に通常より相当長い時間を要する」
という場合です。
こうしたケースを単に「可能」とだけ記載すると、実際よりも軽く伝わってしまうおそれがあります。
障害認定基準では、日常生活動作について、「一人で全くできない」だけでなく、**「一人でできるが非常に不自由」「一人でできてもやや不自由」**という状態も障害程度を判断する要素として示されています。
そのため、「できるか、できないか」の二択ではなく、どれほど時間がかかるのか、動作が円滑に行えるのかという情報も重要になります。
「耐久性」とは
耐久性は、障害年金の診断書を考えるうえで特に見落とされやすいポイントです。
耐久性とは、ある動作をどのくらい継続できるか、また、繰り返して行うことができるかという能力を意味すると考えると分かりやすいでしょう。
例えば、
「100メートル程度なら歩けるが、その後は休憩が必要になる」
「一度なら階段を上れるものの、繰り返すことは難しい」
「数分間なら立っていられるが、その後は座り込まなければならない」
「食事の開始時には箸を使えるが、疲労のため途中から使えなくなる」
という状態です。
診察室では数歩歩けたり、一度立ち上がれたりしても、日常生活ではその動作を何度も行わなければなりません。
その意味で、「一回できる」ことと「日常生活の中で実用的に使える」ことは同じではありません。
障害認定基準が「耐久性」を独立した判断要素として掲げているのは、このような実際の生活上の能力を評価するためと考えられます。
肢体の診断書には、どう表してもらえばよい?
肢体の診断書では、関節可動域や筋力を正確に記載してもらうことはもちろん重要です。
しかし、それだけでは実際の日常生活上の障害が十分に伝わらないことがありますので注意が必要です。
肢体の診断書には巧緻性・速さ・耐久性を記載する欄が設けられていません。
従って、診断書の備考欄に記載してもらうのが適切でしょう。
もちろん、実際の診断書の記載内容を決めるのは医師です。
患者側が表現を指定するものではありません。
ただし、診察の際に、「何ができないか」だけでなく、「どのように不自由なのか」「どのくらい時間がかかるのか」「何回・何分くらい続けられるのか」「休憩が必要なのか」を具体的に医師へ伝えることは、とても重要だと思います。
診察時には「できる・できない」だけで伝えない
例えば歩行についても、「歩けます」だけでは十分ではありません。
実際には、「自宅内は壁や家具につかまりながら歩いている」「屋外は杖を使用している」「50~100メートル程度で脚が疲れて休憩が必要になる」「スーパーではカートにつかまらないと歩き続けられない」「翌日は疲労や痛みが増し、ほとんど外出できない」など、生活上の実態があるかもしれません。
こうした情報こそが、関節可動域や筋力検査だけでは見えにくい巧緻性・速さ・耐久性を説明する材料になります。
日本年金機構の認定基準でも、手指では「つまむ・握る・タオルを絞る・ひもを結ぶ」、上肢では食事や洗顔、衣服の着脱、下肢では片足立ち、屋内・屋外歩行、立ち上がり、階段昇降など、具体的な日常生活動作をもとに身体機能を見る仕組みになっています。
まとめ
肢体の障害年金では、診察室での一場面だけでは分からない障害があります。
重要なのは、
正確にできるか。
通常の速さでできるか。
繰り返し、あるいは一定時間続けられるか。
という点です。
これが、それぞれ「巧緻性」「速さ」「耐久性」という考え方につながります。
障害認定基準は、これらを関節可動域や筋力とあわせ、日常生活における動作の状態から総合的に認定するとしています。
そのため、障害年金を請求する際には、「動作ができるかどうか」だけではなく、その動作が日常生活の中でどの程度実用的に行えるのかまで診断書に反映されているかを確認することが大切です。
なお、障害の状態や傷病によって評価のポイントは異なります。
診断書の記載内容や障害認定基準との関係に不安がある場合には、障害年金を専門的に扱う社会保険労務士などへ相談することをおすすめします。
※本稿は、日本年金機構が公表している「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準(第7節 肢体の障害)」をもとに一般的な考え方を解説したものです。個別の障害等級の認定を保証するものではありません。

