「人工関節を入れているけれど、普通に働いているから障害年金はもらえないのでは?」
このように思われている方は少なくありません。
しかし、障害年金の認定基準では、一定の関節に人工関節または人工骨頭を挿入置換した場合、原則として障害厚生年金3級に認定される取扱いになっています。
つまり、人工関節については、一般的な障害年金のイメージとは少し異なり、フルタイムで働いていることだけを理由として3級に該当しなくなるわけではありません。
ただし、大切な注意点があります。
「人工関節なら何でも3級」ではありません
障害年金の認定基準で3級とされているのは、上肢・下肢の「3大関節」に人工骨頭または人工関節を挿入置換した場合です。
対象となるのは、次の6大関節です。
- 上肢:肩関節・肘関節・手関節
- 下肢:股関節・膝関節・足関節
日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」では、上肢について、「一上肢の3大関節中1関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換したものは3級と認定する」という取扱いが定められています。
同じく下肢についても、「一下肢の3大関節中1関節以上に人工骨頭又は人工関節をそう入置換したものは3級と認定する」とされています。
そして認定基準上、上肢については肩関節・肘関節・手関節、下肢については股関節・膝関節・足関節がそれぞれ関節機能の評価対象として示されています。
したがって、障害年金で人工関節・人工骨頭による3級認定を考える際には、「どこに人工物が入っているのか」まで確認することが重要です。
人工関節を入れていても、障害基礎年金には「3級」がありません
ここで、とても重要なのが初診日です。
人工関節を入れている方から、「私は初診日のとき国民年金だったので、障害年金は請求できないですよね」というご相談をいただくことがあります。
たしかに、障害基礎年金には1級と2級しかなく、3級はありません。
人工関節を挿入したという事実だけで認定されるのは原則として3級ですので、初診日に国民年金に加入していた場合、人工関節を入れたというだけでは障害基礎年金を受給できません。
一方、初診日に厚生年金へ加入していた場合は、障害厚生年金3級の対象となる可能性があります。
そのため、人工関節の障害年金では、「現在どの年金制度に入っているか」ではなく、「その傷病について初めて医師等の診療を受けた日はいつだったのか」が非常に重要になります。
「本当にその日が初診日ですか?」もう一度、昔の受診歴を振り返ってみましょう
たとえば現在、変形性股関節症で人工股関節を入れている方が、最初に強い痛みが出て病院を受診したときには国民年金だったとします。
これだけを見ると、「障害厚生年金3級は請求できない」と考えてしまいがちです。
しかし、その前に会社員として厚生年金に加入していた時期に、
「臼蓋形成不全と言われたことがある」
「股関節が痛くて整形外科を受診した」
「何回かリハビリを受けた」
「レントゲンを撮って経過観察になった」
といった受診歴はなかったでしょうか。
もし、その受診が現在の変形性股関節症と医学的に同一の傷病と判断され、その日が障害年金上の初診日として認められれば、厚生年金加入中の初診として障害厚生年金を請求できる可能性があります。
「国民年金のときに手術をしたから無理」と、ご自身だけで結論を出してしまう前に、これまでの受診歴を一度整理してみることをおすすめします。
変形性股関節症では「子どもの頃の治療歴」が問題になることがあります
人工股関節置換術に至る代表的な傷病の一つが、変形性股関節症です。
変形性股関節症には、幼少期の先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全などが背景にあるケースがあります。
そのため、「子どもの頃に股関節脱臼の治療を受けたことがある」という場合、現在の変形性股関節症と幼少期の傷病との関係が問題になることがあります。
仮に障害年金上の初診日が20歳前と判断されれば、原則として障害基礎年金の対象となります。
しかし、ここも一律ではありません。
幼少期に治療を受けたあと、長期間にわたり自覚症状もなく、治療も必要とせず、通常どおり学校生活・社会生活を送り、大人になってから新たに症状が現れたようなケースでは、成人後の受診日が障害年金上の初診日として認められる余地があります。
つまり、「子どもの頃に股関節の治療を受けたことがある=必ず20歳前初診」とは限りません。
一人ひとりの病歴を丁寧に確認する必要があります。
変形性股関節症は「初診日」の審査が特に重要です
このような事情があるため、変形性股関節症による障害年金請求では、初診日の審査が非常に重要になります。
請求の際には、幼少期の股関節疾患やその後の経過について確認するためのアンケート等の提出を求められることもあります。
そこで、「昔、脱臼したことがあります」「子どもの頃から悪かったです」などと、医学的な経過を十分整理しないまま記載してしまうと、その記載が初診日の判断に大きく影響することがあります。
もちろん事実を正確に記載することが大前提ですが、いつ治療が終了したのか、その後何年間症状がなかったのか、学校生活・就労に支障がなかったのか、成人後にどのような経緯で症状が出たのかまで、時系列に沿って慎重に整理することが大切です。
人工関節は「初診日から1年6か月」を待たなくても請求できることがあります
通常、障害年金では、原則として初診日から1年6か月を経過した日が「障害認定日」となります。
しかし、人工骨頭または人工関節を挿入置換した場合には例外があります。
認定基準では、障害の程度を認定する時期について、「人工骨頭または人工関節を挿入置換した日」とされています。
ただし、挿入置換日がすでに初診日から1年6か月を経過した後である場合は、この限りではありません。
たとえば、初診から10か月後に人工股関節置換術を受けた場合、通常ならあと8か月待たなければ障害認定日にならないところ、人工関節の取扱いによって、手術日を障害認定日として請求できる可能性があります。
人工関節の手術が決まった段階で、初診日の確認や必要書類の準備を始めておくことをおすすめします。
両脚に人工関節を入れれば2級になる?――これは注意が必要です
もう一つ、よくある誤解があります。
「片脚の人工関節が3級なら、両脚に人工関節が入れば2級になるのですか?」というものです。
答えは、必ずしもそうではありません。
認定基準では、両下肢についてそれぞれ人工関節を挿入置換した場合であっても、まずは3級とする取扱いです。
したがって、「人工関節が1個なら3級、2個なら2級」という単純な仕組みではありません。
人工関節を挿入置換した後もなお、両下肢の機能に相当程度以上の障害が残っている場合には、2級などの上位等級に認定される可能性があります。
日本年金機構の認定基準にも、人工関節を挿入置換してもなお一定以上の機能障害が残っている場合には、さらに上位等級に認定すると明記されています。
実際には、両脚に人工関節が入っているという事実だけではなく、
歩行能力、立ち上がり、階段昇降、筋力、関節機能、疼痛、その他の肢体障害などを含め、肢体全体の状態が問題となります。
そのため、「両脚とも人工関節になるまで障害年金を申請せずに待とう」と考える必要はありません。
初診日に厚生年金へ加入していたなどの受給要件を満たしているのであれば、片側の対象関節に人工関節を挿入置換した時点で、障害厚生年金3級を請求できる可能性があります。
フルタイムで働いている方も、まずは初診日を確認してください
人工関節の障害年金では、
「仕事をしているから無理」
「国民年金のときに手術をしたから無理」
「子どもの頃に股関節の治療を受けたから無理」
「両脚が人工関節になるまで待ったほうがいい」
と、ご自身で判断して請求を諦めてしまう方が少なくありません。
しかし、人工関節の場合は、一般的な障害年金とは異なる認定上の取扱いがあります。
特に重要なのは、
①人工関節・人工骨頭を入れた部位が6大関節に該当するか
②現在の傷病の「初診日」は本当にいつなのか
③その初診日に厚生年金へ加入していたか
④保険料納付要件など、その他の受給要件を満たしているか
という点です。
人工関節を入れたからといって、すべての方に自動的に障害年金が支給されるわけではありません。
しかし、6大関節の人工関節・人工骨頭については、障害認定基準上、3級と認定することが明確に定められています。「自分の場合はどうだろう」と思われた方は、昔の診察券やお薬手帳、健康保険の記録、勤務歴なども思い出しながら、ぜひ一度、初診日から一緒に考え直してみましょう。

