大動脈解離の障害年金

大動脈解離で障害年金を受給するには?認定基準と申請のポイントを解説

大動脈解離は、心臓から全身へ血液を送る大動脈の内膜に亀裂が入り、血管壁の内部に血液が流れ込む病気です。
突然の激しい胸痛や背部痛を伴って発症することが多く、特に上行大動脈に解離が及ぶ「Stanford A型」では、緊急手術が必要となるケースが少なくありません。
手術によって一命をとりとめた後も、人工血管の挿入、厳格な血圧管理、運動制限、定期的な画像検査などが長期間必要になることがあります。
また、解離が残存している場合や、心臓、脳、腎臓、下肢などに合併症が生じた場合には、日常生活や仕事に大きな制限が残ることもあります。
このような場合には、一定の要件を満たすことにより、障害年金を受給できる可能性があります。

大動脈解離とは

大動脈の壁は、内膜、中膜、外膜の三層で構成されています。
大動脈解離は、内膜に亀裂が生じ、血液が中膜へ流れ込むことで、大動脈の壁が二層に分かれる病気です。
大動脈解離は、解離が及ぶ範囲によって、主に次のように分類されます。
障害年金の認定基準では、Stanford A型とB型のいずれも「胸部大動脈解離」として評価の対象になります。

Stanford A型

上行大動脈に解離が及んでいるものをいいます。
心タンポナーデ、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈の血流障害など、生命に直結する合併症を起こす危険性が高く、多くの場合は緊急手術の対象となります。

Stanford B型

上行大動脈には解離が及んでいないものをいいます。
臓器への血流障害や破裂などがなければ、まず降圧治療を中心に経過をみることがあります。
一方、病状によっては人工血管置換術やステントグラフト内挿術が必要になります。

大動脈解離の障害認定基準

大動脈解離は、障害認定基準上、「心疾患による障害」のうち「大動脈疾患」として審査されます。
障害認定基準では、大動脈疾患について、次のいずれかに該当する場合が障害厚生年金3級の例として示されています。

1.人工血管を挿入した場合

胸部大動脈解離または胸部大動脈瘤によって人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表の「イ」または「ウ」に該当する場合です。
人工血管には、外科手術による人工血管置換だけでなく、ステントグラフトも含まれます。
ただし、認定基準は、単に人工血管が挿入されていることだけを要件としているわけではありません。
人工血管の挿入に加えて、一般状態が次のいずれかに該当することが必要です。

一般状態区分「イ」

軽度の症状があり、肉体労働は制限されるものの、歩行、軽労働、座業などはできる状態です。例えば、軽い家事や事務作業ができる程度とされています。

一般状態区分「ウ」

歩行や身の回りのことはできるものの、時に多少の介助が必要となり、軽労働はできない状態です。
ただし、日中の50%以上は起きて生活しているものとされています。
したがって、人工血管置換術を受けたとしても、症状がなく、発病前と同様に仕事や社会生活を送っている場合には、必ずしも3級に認定されるとは限りません。
一方、術後も重い物を持てない、長時間勤務ができない、階段や坂道で息切れする、血圧上昇を避けるため業務内容を制限されているなど、現実に労働上の制限が生じている場合には、その内容を具体的に示すことが重要です。

2.難治性高血圧を合併している場合

胸部大動脈解離または胸部大動脈瘤に、難治性高血圧を合併している場合も、3級の対象として例示されています。
障害認定基準上の難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の改善を行い、適切な降圧薬を3剤以上、適切な用量で継続して使用しているにもかかわらず、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上である状態をいいます。
単に降圧薬を複数服用しているというだけではなく、治療を続けてもなお血圧が基準値以上であることがポイントです。

大動脈解離では1級・2級になることはある?

大動脈疾患は、特殊な例を除いて、心筋症などのような慢性心不全を呈することが少ないため、障害認定基準上は一般的に1級または2級には該当しにくいとされています。
しかし、1級・2級に絶対に該当しないという意味ではありません。
大動脈解離に関連して重い合併症や手術後遺症が残った場合には、その程度によって、さらに上位の等級に認定される可能性があります。
障害認定基準にも、大動脈疾患に関連する合併症や手術の後遺症によっては、上位等級に認定すると明記されています。

例えば、次のようなケースが考えられます。
・脳梗塞や脳出血による片麻痺、失語症、高次脳機能障害が残った
・脊髄梗塞によって両下肢麻痺が残った
・腎血流障害によって重い腎機能障害が残った
・大動脈弁閉鎖不全や心不全を合併した
・下肢への血流障害により歩行機能が著しく低下した
・反回神経麻痺による嗄声や嚥下障害が残った
・手術後の呼吸器障害や胸郭の障害が残った
・複数の臓器障害が重なり日常生活に著しい制限が生じた
この場合、大動脈解離そのものだけでなく、残存した障害に応じて、肢体、脳血管障害、腎疾患、呼吸器疾患、心疾患など、それぞれの障害認定基準によって評価されることがあります。

障害基礎年金では3級がないことに注意

障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金があります。
初診日に厚生年金へ加入していた場合は、1級、2級に加えて3級の障害厚生年金が設けられています。
一方、初診日に国民年金へ加入していた場合の障害基礎年金には、1級と2級しかなく、3級はありません。
大動脈解離で人工血管を挿入した場合の認定基準は、基本的に3級として示されています。
そのため、初診日に厚生年金へ加入していたかどうかは、受給の可否を大きく左右します。
初診日に国民年金へ加入していた場合には、人工血管を挿入したという事実だけでは障害基礎年金を受給できず、合併症や手術後遺症を含めて、日常生活が著しく制限される2級以上の状態に該当することが必要です。

大動脈解離の初診日はいつになる?

障害年金における初診日とは、障害の原因となった傷病について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。
大動脈解離は、突然の胸痛や背部痛などによって救急搬送され、その日に診断されることが多いため、通常は救急搬送先の病院を受診した日が初診日となります。
ただし、発症前から大動脈瘤、大動脈拡張、マルファン症候群、二尖大動脈弁などについて継続的に診療を受けていた場合には、どの時点を初診日とするか慎重な検討が必要です。
また、大動脈解離より前から高血圧の治療を受けていたとしても、高血圧の初診日が当然に大動脈解離の初診日になるとは限りません。
高血圧と大動脈解離の間に障害年金上の相当因果関係が認められるかは、病状の経過や医学的な関係を踏まえて個別に判断されます。
単に高血圧の既往があるという理由だけで、直ちに高血圧の受診日まで初診日が遡るものではありません。

人工血管置換術を受けた日が障害認定日になる可能性が高い

障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。
人工血管、人工弁、心臓ペースメーカー、ICDなどについては、初診日から1年6か月以内に装着した場合、装着日を障害認定日として取り扱う特例があります。

大動脈解離で障害年金を申請する際のポイント

1.人工血管だけでなく一般状態を具体的に示す

大動脈解離による人工血管の挿入は、一般状態区分表の「イ」または「ウ」に該当することが3級認定の要件となっています。
そのため、診断書の一般状態区分欄が「ア」と評価されると、人工血管が挿入されていても認定が難しくなる可能性があります。
申請に当たっては、次のような具体的な制限を整理しておきます。
・重い物を持つことを禁止されている
・息を止めて力む動作を避ける必要がある
・階段、坂道、長距離歩行で息切れや動悸が出る
・血圧上昇を避けるため、運動や作業を制限されている
・疲労しやすく、休憩を挟まなければ活動を続けられない
・長時間勤務、残業、夜勤、出張ができない
・高温環境、寒冷環境、重量物作業に従事できない
・定期的な通院や検査のため欠勤、早退が必要になる
・再解離や破裂への不安から生活範囲が制限されている
「人工血管が入っている」という事実だけでなく、そのために日常生活や労働がどのように制限されているかを伝える必要があります。

2.就労していても申請できる

仕事をしているからといって、障害年金を申請できないわけではありません。
特に障害厚生年金3級は、「労働が制限を受ける、または労働に制限を加える必要がある程度」の障害を対象としています。
したがって、就労していても、次のような事情があれば3級に該当する可能性があります。
・肉体労働から事務職へ配置転換された
・重量物の運搬を免除されている
・残業や夜勤を禁止されている
・短時間勤務となっている
・在宅勤務を認められている
・出張、外回り、長距離運転を免除されている
・頻繁に休憩を取っている
・同僚や上司の支援を受けながら勤務している
・体調不良による欠勤、遅刻、早退が多い
・発症前と比べて賃金や職務上の責任が低下している
反対に、発症前と同じ勤務時間、業務内容、責任、勤務成績で働き、職場から特段の配慮を受けていない場合には、一般状態区分「ア」と判断され、不支給となる可能性があります。
就労中の場合には、単に「働いている」と記載するのではなく、発症前と現在の働き方を比較し、どのような制限や配慮があるかを明確にすることが重要です。

3.複数の障害がある場合は、それぞれの診断書を検討する

大動脈解離によって脳梗塞、腎不全、片麻痺、高次脳機能障害などが生じた場合、心疾患用の診断書だけでは障害の全体像を十分に伝えられないことがあります。
例えば、次のように診断書を使い分けます。
・大動脈解離、人工血管、心不全  → 心疾患用診断書

・片麻痺、下肢麻痺 → 肢体の障害用診断書

・失語症、高次脳機能障害 → 言語機能の障害用診断書、精神の障害用診断書

・腎不全 → 腎疾患用診断書
合併症の状態によっては、複数の障害を併合して等級を判断することがあります。
どの傷病をどの診断書で請求するかによって結果が変わることがあるため、請求前の整理が非常に重要です。

社会保険労務士に依頼するメリット

1.診断書の記載内容を確認できる

大動脈解離では、診断書に人工血管の挿入が記載されていても、一般状態区分が「ア」とされていたり、就労上の制限が記載されていなかったりすると、不支給になる可能性があります。
社会保険労務士に依頼すれば、診断書の内容について、次のような点を確認できます。
・手術名と人工血管の挿入部位が記載されているか
・Stanford分類が記載されているか
・ステントグラフトが適切に記載されているか
・一般状態区分が実態と一致しているか
・残存解離や合併症が記載されているか
・医師からの運動制限や就労制限が記載されているか
・自覚症状、検査結果、日常生活状況に矛盾がないか
診断書の医学的判断を変えることはできませんが、医師に正確な生活状況や就労状況を伝えるための資料を準備することはできます。

2.合併症を含めた最適な請求方法を検討できる

大動脈解離の後に脳梗塞や腎障害などが残っている場合、大動脈疾患だけで3級を請求するよりも、合併症を含めて2級以上を検討すべきケースがあります。
一方で、複数の傷病を同時に請求することで書類が複雑になり、かえって争点が不明確になることもあります。
社会保険労務士に依頼することで、どの障害を中心に請求するか、どの診断書を提出するか、複数障害の併合を検討するかなど、事案に応じた請求方針を立てられます。

3.ご本人様やご家族様の労力が省ける

大動脈解離のみで3級を請求することは、ご本人やご家族の方々にお時間の余裕があればご自身で手掛けることも可能でしょう。
一方で、ご自身で請求するには平日に何度も年金事務所へ足を運び、病院とやり取りする必要があります。社労士はそれらを全て手掛けますので、報酬はかかりますが、全て丸投げで早く正確に進めるようにされたい方には最適です。

まとめ

大動脈解離は、緊急手術によって救命された後も、人工血管の挿入、残存解離、厳格な血圧管理、運動制限などが長期間続く病気です。
障害認定基準では、胸部大動脈解離によって人工血管またはステントグラフトを挿入し、一般状態区分表の「イ」または「ウ」に該当する場合、障害厚生年金3級の対象として示されています。
ただし、人工血管を挿入したという事実だけで、必ず3級になるわけではありません。
日常生活や仕事にどのような制限があるのか、一般状態がどの区分に該当するのか、診断書や申立書で具体的に示すことが重要です。
また、脳梗塞、片麻痺、高次脳機能障害、腎障害、心不全などの合併症が残っている場合には、3級にとどまらず、2級以上に認定される可能性もあります。
大動脈解離の障害年金請求は、人工血管の有無だけでなく、初診日の年金加入制度、手術内容、残存病変、合併症、日常生活状況、就労上の配慮などを総合的に整理しなければなりません。


請求方法や診断書の内容に不安がある場合は、障害年金を専門とする社会保険労務士へ早めに相談することをおすすめします。

 

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