ポリオ、ポストポリオの障害年金
ポリオの後遺症によって長年にわたり手足の麻痺が残っている方や、いったん症状が安定していたものの、数十年後に新たな筋力低下や強い疲労が現れた方は、障害年金の対象になる可能性があります。
特に「ポストポリオ症候群」は、子どもの頃に発症したポリオと関係する病気でありながら、障害年金では一定の条件を満たすことにより、ポリオとは別の病気として初診日を判断する取扱いが行われています。
この取扱いを知らずに、「子どもの頃のカルテがないから請求できない」「20歳前に発症した病気なので障害基礎年金しか請求できない」と考えてしまうケースもあります。
ここでは、ポリオとポストポリオ症候群の違い、障害認定基準、障害年金を請求する際のポイントについて解説します。
ポリオとは
ポリオは、正式には「急性灰白髄炎」といい、「脊髄性小児麻痺」と呼ばれることもあります。
ポリオウイルスの感染によって発症し、脊髄の運動神経などが障害されることで、手足や呼吸に使う筋肉に麻痺が生じることがあります。麻痺型ポリオでは、左右対称ではない弛緩性麻痺が現れることが特徴とされています。
日本では、予防接種の普及により新たな国内発生はほとんどみられなくなりました。しかし、過去にポリオに罹患した方の中には、現在も次のような後遺症を抱えている方がいます。
・片方または両方の手足の麻痺
・筋力の低下や筋萎縮
・脚の長さの左右差
・歩行障害
・関節の変形や拘縮
・脊柱の変形
・装具、杖、車椅子の使用
・呼吸筋の麻痺による呼吸障害
このような障害が日常生活や仕事に大きな制限を与えている場合には、障害年金に該当する可能性があります。
ポストポリオ症候群とは
ポストポリオ症候群は、子どもの頃などにポリオに罹患した方が、いったん症状の安定した状態で長期間生活した後、数十年を経て新たな筋力低下や疲労などを生じる状態です。
「ポリオ後症候群」「PPS(Post-Polio Syndrome)」とも呼ばれます。
主な症状には、次のようなものがあります。
・以前よりも筋力が低下した
・短時間の歩行や立位でも疲れる
・転倒することが増えた
・階段の昇降が難しくなった
・これまで使えていた手足が使いにくくなった
・筋肉痛や関節痛が強くなった
・寒さに弱くなった
・飲み込みにくさや呼吸障害が現れた
・全身に強い疲労感がある
ポリオの急性期には、一部の運動神経細胞が失われます。その後、残った運動神経が失われた神経の働きを補うことで、長期間にわたり一定の筋力が維持されます。
しかし、加齢や長年の過剰な負担などによって、残された運動神経が機能を維持できなくなり、新たな筋力低下などが生じると考えられています。
ポリオとポストポリオ症候群の違い
ポリオとポストポリオ症候群は関連する病気ですが、障害年金の請求では区別して考えることが重要です。
ポリオは、ポリオウイルスの感染によって急性期に生じた麻痺と、その後に残った後遺症です。
一方、ポストポリオ症候群は、ポリオの症状が長期間安定していた後に、新たな筋力低下や異常な疲労などが加わった状態です。
厚生労働省は、障害年金の認定上、一定の要件を満たすポストポリオ症候群について、元のポリオとは「別疾病」として取り扱うことを明らかにしています。
したがって、ポストポリオ症候群の初診日は、原則として、ポリオを発症した子どもの頃の受診日ではなく、ポストポリオ症候群について初めて医師の診療を受けた日となります。
この違いは、障害年金を請求できる制度や保険料納付要件を判断するうえで、非常に重要です。
障害年金上、ポストポリオ症候群として扱われる要件
障害年金の認定上、ポストポリオ症候群は、一定の要件をすべて満たす場合に、過去に発症したポリオとは別の疾病として取り扱われます。
具体的には、次の4つの要件を満たしていることが必要です。
① 新たな筋力低下および異常な筋の易疲労性があること
ポリオによる従来からの麻痺とは別に、新たな筋力低下や、筋肉が異常に疲れやすくなる症状が現れていることが必要です。
この要件は、主として障害年金の診断書に記載された医学的所見から判断されます。
そのため、診断書には、単に「筋力が低下している」と記載するだけではなく、以前と比べてどの部位の筋力が低下したのか、歩行や立位などの動作を繰り返すとどの程度疲労するのか、休息が必要になるのかといった症状について、具体的に記載されていることが重要です。
例えば、次のような状態が考えられます。
・以前は歩けていた距離を歩けなくなった
・立っていられる時間が短くなった
・階段の昇降が困難になった
・夕方になると足が上がらなくなる
・短時間の動作でも筋肉が著しく疲労する
・これまで使用していなかった杖や車椅子が必要になった
ポストポリオ症候群では、診察時に一度だけ動作ができるかどうかだけでなく、その動作を反復、継続できるかという点も重要になります。
② ポリオの既往歴があり、少なくとも一肢にポリオによる弛緩性運動麻痺が残存していること
過去にポリオに罹患したことがあり、現在も少なくとも一つの上肢または下肢に、ポリオによる弛緩性運動麻痺が残っていることが必要です。
この要件は、診断書または病歴・就労状況等申立書の内容から判断されます。
診断書では、筋力低下、筋萎縮、左右差、関節の変形、歩行状態、装具の使用状況などの医学的所見が確認されます。
一方、ポリオを発症した時期が幼少期であり、当時のカルテや診断書が残っていない場合には、病歴・就労状況等申立書で次のような経過を具体的に説明することが重要です。
・幼少期にポリオと診断された経過
・発熱後に手足の麻痺が生じたこと
・子どもの頃から片方の手足が細かったこと
・歩行時に足を引きずっていたこと
・装具や特殊な靴を使用していたこと
・体育や運動に制限があったこと
・身体障害者手帳を取得していたこと
・ポリオの後遺症として継続的に治療やリハビリを受けていたこと
古い医療記録がない場合でも、身体障害者手帳の申請記録、過去の診断書、装具の作製記録、学校の記録、母子健康手帳、家族などによる第三者証明が、ポリオの既往歴を補足する資料になることがあります。
③ ポリオから回復した後、ポストポリオ症候群を発症するまでに、症状が安定していた期間がおおむね10年以上あること
ポリオの急性期を経た後、症状が長期間にわたっておおむね安定しており、その後、新たに筋力低下や易疲労性が現れたという経過が必要です。
安定していた期間は、おおむね10年以上が目安とされています。
この要件は、主として病歴・就労状況等申立書の内容から判断されます。
ここでいう「症状が安定していた」とは、ポリオによる麻痺や筋力低下が完全に治っていたという意味ではありません。
一定の後遺症が残っていたとしても、その状態に大きな変化がなく、学校生活、就労、家事、育児などを長期間にわたって継続できていた場合には、症状が安定していた期間として説明できる可能性があります。
病歴・就労状況等申立書では、次の3つの時期を区別して記載することが重要です。
1.ポリオを発症した時期と、その後に残った障害
2.症状がおおむね安定していた期間
3.新たな筋力低下や易疲労性が現れた時期
④ 新たな筋力低下および異常な筋の易疲労性の主な原因が、ほかの疾患ではないこと
新たに現れた筋力低下や易疲労性について、その主な原因がポストポリオ症候群であり、ほかの病気によるものではないことが必要です。
この要件は、主として診断書に記載された診断名、検査結果、治療経過、鑑別診断などの医学的所見から判断されます。
筋力低下や歩行障害は、ポストポリオ症候群以外にも、次のような病気によって生じることがあります。
・脳梗塞などの脳血管障害
・腰部脊柱管狭窄症
・椎間板ヘルニア
・変形性股関節症や変形性膝関節症
・末梢神経障害
・筋疾患
・パーキンソン病などの神経疾患
・廃用性筋力低下
・加齢に伴う筋力低下
これらの疾患が併存している場合でも、直ちにポストポリオ症候群として認められなくなるわけではありません。
ただし、新たな筋力低下や易疲労性の主な原因がどの疾患によるものなのかが重要になります。
診断書には、必要に応じて、ほかの疾患との鑑別が行われた経過や、現在の症状がポストポリオ症候群によるものと判断した医学的根拠を記載してもらうことが望まれます。
ポストポリオ症候群の初診日が重要な理由
障害年金では、初診日に加入していた年金制度によって、請求できる障害年金の種類が変わります。
初診日に国民年金に加入していた場合や、20歳前または60歳以上65歳未満の一定の未加入期間に初診日がある場合には、原則として障害基礎年金が対象になります。
一方、初診日に厚生年金に加入していた場合には、障害厚生年金が対象になります。
子どもの頃のポリオを初診日とすれば、一般的には20歳前傷病として障害基礎年金を検討することになります。
しかし、成人後に発症したポストポリオ症候群が別疾病として認められ、その初診日に厚生年金へ加入していれば、障害厚生年金を請求できる可能性があります。
障害厚生年金には1級、2級に加えて3級があるため、初診日の判断によって請求の可能性が大きく変わることがあります。
ただし、単に成人後に筋力が落ちたというだけでは、ポストポリオ症候群の初診日が認められるとは限りません。
元の麻痺が徐々に悪化しただけなのか、安定期間を経て新たな症状が生じたのかを、医療記録や生活状況から明確にする必要があります。
障害年金請求のポイント
ポイント1 ポリオとポストポリオの症状を分けて整理する
ポストポリオ症候群として請求する場合には、子どもの頃から残っているポリオの後遺症と、成人後に新たに生じた症状を分けて整理することが重要です。
例えば、次のような経過を時系列で明確にします。
・子どもの頃から右脚に麻痺が残っていた
・装具を使用しながらも、学校生活や就労は継続できていた
・その後、20年以上にわたり症状はおおむね安定していた
・50歳頃から左脚にも筋力低下が現れた
・以前より疲れやすくなり、転倒が増えた
・階段昇降や通勤が困難になった
・医療機関でポストポリオ症候群と診断された
このように、安定していた期間と新たな症状の出現を具体的に示すことが、ポストポリオ症候群としての初診日を主張するための重要なポイントになります。
ポイント2 初診日の医療機関を慎重に確認する
ポストポリオ症候群の初診日は、正式に診断された日とは限りません。
新たな筋力低下、疲労、転倒、歩行困難などを訴えて、初めて医師の診療を受けた日が初診日になる可能性があります。
整形外科、神経内科、リハビリテーション科など、複数の医療機関を受診している場合には、最初の受診先がどこであったかを確認しなければなりません。
当初は「加齢による筋力低下」「腰の病気」「変形性関節症」などと診断され、後からポストポリオ症候群と判明することもあります。
そのため、ポストポリオという病名が初めて付いた日だけでなく、新たな症状について最初に受診した日までさかのぼって確認する必要があります。
ポイント3 ほかの病気との区別を明確にする
ポストポリオ症候群として認められるためには、新たな筋力低下や疲労の主な原因が、ほかの病気ではないことが必要です。
加齢による筋力低下のほか、腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、変形性関節症、脳血管障害、末梢神経障害、筋疾患などでも、歩行障害や筋力低下が生じます。
診断書や病歴・就労状況等申立書では、必要に応じて、これらの病気との鑑別経過を説明してもらうことが大切です。
社会保険労務士に依頼するメリット
ポリオやポストポリオ症候群の障害年金請求は、一般的な肢体障害の請求と比べても、初診日の判断や病歴の整理が難しい傾向があります。
ポリオとポストポリオの初診日を整理できる
ポストポリオ症候群が障害年金上の別疾病に当たるかどうかによって、初診日や請求できる年金制度が変わる可能性があります。
社会保険労務士に依頼することで、症状の経過、受診歴、厚生年金の加入期間などを確認し、どの日を初診日として請求すべきかを整理できます。
古い医療記録がない場合の対応を検討できる
ポリオは子どもの頃に発症していることが多く、当時の医療機関が廃院していたり、カルテが廃棄されていたりすることがあります。
ポストポリオ症候群として請求する場合にも、過去のポリオ罹患歴や、その後の症状の安定期間を説明する必要があります。
医師に伝えるべき内容を整理できる
障害年金の診断書では、単なる病名や筋力検査の結果だけでなく、日常生活動作や障害の程度を正確に記載してもらう必要があります。
社会保険労務士が本人から生活状況を詳しく聞き取り、受診時に医師へ伝えるべき事項を整理することで、実際の障害状態が診断書に反映されやすくなります。
ただし、診断書を作成するのはあくまで医師であり、社会保険労務士が診断内容や医学的判断を指定することはできません。
病歴・就労状況等申立書で生活実態を補足できる
診断書だけでは、長年の経過や、疲労による動作能力の変化、職場で受けている配慮などを十分に表せないことがあります。
社会保険労務士へ依頼することで、ポリオ発症時から現在までの経過を整理し、診断書との整合性に注意しながら、病歴・就労状況等申立書を作成できます。
まとめ
ポリオによる麻痺が残っている方や、ポストポリオ症候群によって新たな筋力低下、易疲労性、歩行障害などが生じた方は、障害年金の対象になる可能性があります。
特にポストポリオ症候群では、一定の要件を満たせば、障害年金の認定上、子どもの頃に発症したポリオとは別の病気として扱われます。
その場合、ポストポリオ症候群について初めて医師の診療を受けた日が初診日となるため、成人後の厚生年金加入中の初診日として障害厚生年金を請求できる可能性もあります。
一方で、元からあるポリオの後遺症と、新たに発症したポストポリオ症候群の症状を明確に区別し、長期間の安定期があったことや、ほかの病気が主な原因ではないことを説明しなければなりません。
また、ポストポリオ症候群では、診察室で一度だけ行える動作と、日常生活の中で繰り返し安全に行える動作との間に大きな差があることがあります。
筋力や関節可動域の数値だけでなく、易疲労性、転倒の危険性、装具や杖の使用状況、動作に要する時間、就労上の配慮などを具体的に伝えることが大切です。
初診日や病歴の整理に不安がある場合、または子どもの頃の医療記録が残っていない場合には、請求手続きを始める前にポリオ、ポストポリオの施用外年金請求実績のある当センターにご相談ください。

