ADHDの障害年金申請|生活上の困難が多くても「就労継続」が壁となり不支給になった事例

この案件で難しかったのは、ADHDの特性による生活上の困難が多数ある一方、個人事業主として月収約16万円の収入を得ながら仕事を続けていたことでした。
障害年金2級では、日常生活に著しい制限があることが求められます。そのため、金銭管理や予定管理などに家族の援助を受けていても、実際にどの程度働けているのか、仕事をどのように維持しているのかが大きな評価ポイントになると考えました。

「こんなに困っているのに、なぜ難しいのですか?」

この方は個人事業主として働き、月収は約16万円ありました。
しかし、ADHDの特性から支払いや各種手続の管理がうまくできず、滞納を繰り返した結果、経済的に非常に苦しい状況となっていました。
主治医や訪問看護師とも相談し、「障害年金を申請するのであれば、社会保険労務士に相談した方がよい」と考え、当事務所へご相談いただきました。
私は当初から、「現在も一定の収入を得ながら仕事を続けている場合、障害年金2級の認定は簡単ではありません」とご説明しました。
それでもご本人は、「これだけADHDの特性で困っているのに、なぜ障害年金の対象にならないのか」と強く希望されていたため、認定が難しい可能性をご理解いただいたうえで申請をお引き受けしました。

幼少期からADHDの特性が続いていた

幼少期から忘れ物や片付けの苦手さ、注意散漫、衝動性などがあり、学校生活でも授業への集中や課題遂行に苦労していました。
大学では心理学を学ぶ中で自身のADHD傾向に気付き、米国留学中には検査を受け、試験時間の延長やノートテイカーなどの配慮を受けています。
帰国後はホテル、翻訳、英会話講師など様々な仕事に就きましたが、遅刻、予定管理、複数業務の同時進行、対人コミュニケーションなどで困難があり、就労は安定しませんでした。現在は個人事業主として在宅中心に働いていますが、金銭管理、支払い、各種手続、食事や片付け、予定管理など、生活の多くを母に援助してもらっています。
令和5年10月に精神科を受診してADHDと診断され、現在はコンサータによる治療や訪問看護を受けています。

実務上のポイント① 「困りごとが多い」ことと「2級相当」は同じではない

今回、診断書や病歴・就労状況等申立書には、ADHDによる多くの困難が記載されていました。
しかし、障害年金では、困りごとの数だけで等級が決まるわけではありません。
特に障害基礎年金2級では、日常生活が著しい制限を受けている状態かどうかが重要になります。
今回のように、
・支払い管理ができず滞納する
・予定管理が難しい
・片付けができない
・各種手続を家族に頼る
・忘れ物や注意散漫が多い
といった支障があったとしても、それらがどこまで「日常生活を一人では維持できない程度」に達しているかが審査されます。

実務上のポイント② 就労している場合は「収入」だけでなく仕事の実態が見られる

この方は、個人事業主として月収約16万円を得ていました。
精神・発達障害の障害年金では、働いているだけで直ちに不支給になるわけではありません。
一方で、一定の仕事を継続し、収入を得ているという事実は、社会生活能力や労働能力が一定程度保たれていると評価される方向に働く可能性があります。そのため、
・どの程度自分一人で仕事を進めているのか
・仕事上どのような援助を受けているのか
・納期や金銭管理をどの程度自分で行っているのか
・仕事を続けるためにどのような工夫が必要なのか
・就労後に日常生活がどの程度崩れているのか
などまで具体的に整理することが重要です。

実務上のポイント③ 家族の援助があっても、その「量と必要性」が問われる

この方は、金銭管理、支払い、食事、片付け、予定管理など、生活の多くを母に支援してもらっていました。
しかし、障害年金では「家族に助けてもらっている」という事実だけではなく、援助がなければどの程度生活が破綻するのか、その援助が日常的・継続的に必要なのかまで具体的に見られます。
今回は、生活上の支障についてはできる限り詳しく申立書へ記載しましたが、就労を継続している実態も含めて総合的に判断されたものと考えられます。

結果は障害基礎年金「不支給」

結果として、障害基礎年金は不支給となりました。
診断書や病歴・就労状況等申立書にはADHDによる生活上の困難が多数記載されていましたが、障害年金2級相当と評価されるほど、日常生活能力が著しく制限されているとは判断されなかったものと考えられます。
特に、個人事業主として仕事を継続し一定の収入を得ていること、外出や対人交流も一定程度可能であることなどが、障害の程度を軽く評価する方向に働いた可能性があります。
ADHDの障害年金では、「本人がどれだけ困っているか」だけではなく、その困難によって実際の日常生活や社会生活がどの程度制限されているかが重要です。
今回の事例は、生活上の支障が多数あっても、それが障害年金2級の認定基準にどこまで該当するのかという点について、改めて考えさせられる案件となりました。

 

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