脳腫瘍の障害年金申請|認定日は「てんかん」、現在は「左片麻痺」で診断書を使い分けた遡及請求
この案件で難しかったのは、障害認定日頃と現在とで、障害年金の対象となる症状が変わっていたことです。
現在は重い左片麻痺がありましたが、障害認定日頃にはまだ現在ほどの麻痺はありませんでした。
そこで過去の資料を確認したところ、当時は症候性てんかんによる発作が続いていたことが分かり、遡及分はてんかん、現在分は肢体障害という異なる診断書を使用して請求することになりました。
「現在の左片麻痺」だけでは遡及請求が難しかった
お母様は、障害認定日まで遡った請求を希望されていました。
しかし病歴を詳しく確認すると、20歳の障害認定日頃には、現在みられるような重度の左片麻痺はありませんでした。
そのため、現在の肢体障害をそのまま過去へ当てはめて遡及請求することは難しいと考えました。
ところが、お持ちの障害者手帳を確認すると、現在の肢体障害による身体障害者手帳2級とは別に、てんかんによる精神障害者保健福祉手帳3級が交付されていました。
しかも、その交付時期はちょうど障害認定日頃でした。
ここから、障害認定日当時については、左片麻痺ではなくてんかんによる発作や日常生活への支障で障害年金に該当していた可能性を検討することになりました。
脳腫瘍の再発を繰り返し、てんかんから左片麻痺へ
15歳のときに左顔面痙攣を発症し、医療機関で右前頭葉腫瘍を指摘されました。
大学病院で開頭腫瘍摘出術を受け、膠芽腫と診断。
その後も放射線治療、抗がん剤治療、複数回の開頭手術、PDT治療、ガンマナイフ治療など、長期間にわたり治療を続けていました。
また、症候性てんかんによる口元の痙攣、流涎、手のしびれ、発語困難などを伴う発作が月1~3回程度続いていました。
その後、脳腫瘍の再発に伴って左片麻痺が急速に進行。
現在では左手指をほとんど使用できず、屋内は伝い歩き、屋外では杖が必要な状態となりました。
着替え、入浴、炊事、洗濯、買物、外出などにもご家族の介助を必要とし、就労できる状態ではありませんでした。
実務上のポイント① 障害認定日と現在を「同じ障害」で考えない
遡及請求では、現在重い障害があるからといって、障害認定日当時も同じ状態だったとは限りません。
今回、現在の左片麻痺だけを基準に考えていれば、「障害認定日当時は肢体の障害として等級に該当しない」と判断して、遡及請求を断念していた可能性があります。
しかし、障害認定日当時にどのような症状があり、生活にどのような支障が生じていたのかを改めて確認することで、当時はてんかんが障害の中心であったことが分かりました。
実務上のポイント② 遡及分と現在分で診断書を使い分ける
そこで本件では、
- 障害認定日当時:てんかんについて「精神の障害用」診断書
- 請求時点:左片麻痺について「肢体の障害用」診断書
をそれぞれ取得して申請しました。
同じ脳腫瘍を原因とする障害であっても、長い治療経過の中で障害の現れ方が変化することがあります。
その場合には、それぞれの時点で実際に障害の中心となっていた症状を見極め、認定基準に対応した診断書を選択することが重要になります。
遡及分は2級、現在分は1級に認定
申請の結果、障害認定日については、てんかんによる障害が認められ、障害基礎年金2級に認定されました。
さらに、請求時点については重度の左片麻痺による肢体障害が認められ、障害基礎年金1級に認定されました。
残念ながら、ご本人は審査の途中でご逝去され、認定結果を直接お伝えすることはかないませんでした。
しかし、障害認定日まで遡って認められた年金と、ご逝去までに受給権が発生していた年金については、未支給年金としてお母様へ支給されました。
障害年金の遡及請求では、現在の診断名や症状だけを見るのではなく、「障害認定日当時は何が一番生活を制限していたのか」を改めて確認することが非常に重要です。
今回も、障害認定日当時のてんかんと、現在の左片麻痺をそれぞれ適切な診断書で申請したことが、遡及分2級、現在分1級という認定につながりました。
ご本人が長年にわたり困難な治療と向き合ってこられたことに、心より敬意を表します。
謹んでご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご依頼いただきましたお母様にも改めて感謝申し上げます。

